『自然学』A4 #1 自然学説の分類,アナクサゴラス理論の前提

Phys. 187a12-b7.

[187a12] 自然学者たちが述べる仕方には,二つの仕方がある。すなわち,ある自然学者たちは基礎に置かれる物体を一つとなし,三者のうちあるもの,あるいは他の,火より濃密だが空気より稀薄なもの〔がそれである〕として,他のものどもを濃密さと稀薄さが生むとき,多となす。(これらは対立するものであり,一般には超過と不足である,ちょうどプラトンが大と小と言っているように。ただし,プラトンがこれらを質料として一を形相とした一方,自然学者たちは一を基礎に置かれる質料とし,対立するものを種差すなわち形相としたのだけれども。) 他の自然学者たちは,一から対立するものが析出される〔と主張する〕,ちょうどアナクシマンドロスが主張するように。エンペドクレスやアナクサゴラスのように,一と多があると主張する限りの人々も〔そう主張している〕。というのも,混合物から,他のこれらのものをも析出しているから。だが彼らは互いと異なっている。彼らの一方は循環となし,他方は一回的となし,また一方は同質部分的なものや対立するものを無限となし,他方はいわゆる要素のみとなすから。

[187a26] アナクサゴラスは,「あらぬものからは何ものも生じない」という,自然学者たちの共通の見解を真であると想定したために,このように無限であると考えたのだと思われる。というのも,そのことのゆえに,人々は「全ては一体であった」と語り,こうした〈生じること〉を性質変化することだとし,ある人々は結合と分離だとするから。さらに,互いから対立するものが生じることから〔無限であると考えたように思われる〕。つまり〔互いに〕内属していたのである。というのも,もし生じるものすべてが〈あるものども〉ないしは〈あらぬものども〉から生じることが必然である一方,これらのうち〈あらぬものども〉から生じることが不可能であり (というのも,この見解については,自然学者たち全員が同意しているから),残りのものは直ちに必然的に帰結すると彼らは考えていた。すなわち〈あるものども〉や内属するものどもから生じるのだと考えていたのだ――集塊の微小さゆえに我々には感覚できないのだが。それゆえ,全てのものが全てのもののうちに混ざっていると彼らは主張する。全てのものから全てが生じることを見たためである。無限のものの混合のうちで大きさゆえに最も卓越したものから,様々なものどもとして現れ,互いに異なる名前で呼称される〔と彼らは主張する〕。というのも,混じり気なく全体的に白い,黒い,甘い,肉である,骨である,ということはない一方,何であれそれのうち各々が最も多く有するものが物の本性であると思われているからだと。

訳注

OCT に従い a13 の ὂν を削除する: 'οἱ μὲν γὰρ ἓν ποιήσαντες τὸ [ὂν] σῶμα τὸ ὑποκείμενον'. ὄν を gloss とする Ross の説明は苦しく思えるが,代案はない*1

ὁ φυσικός, ὁ περὶ φύσεως: 自然学者,ἐκκρίνω: 析出する,δόξα: 見解。

  • ἐκκρίνω する主体は (a23 を文字通りに読むなら) 人に見える。認識論的な含みがあるのだろうか*2
  • 'ὅτου δὲ πλεῖστον ἕκαστον ἔχει, τοῦτο ...' (b6) がどういう属格かよく分からない。

要約

  • 自然学者は,二つの仕方で語る。
    1. 一つのものがあり,それと濃密化/稀薄化から多が生じる。
    2. 一つのものがあり,そこから対立するものが析出される。
      • アナクシマンドロスがそうである。
      • 「一と多がある」派 (エンペドクレス,アナクサゴラス) もそう考える。一つ = 混合物。
        • エンペドクレス: 析出されるプロセスは循環的,多は有限個の要素。
        • アナクサゴラス: 析出されるプロセスは一回的,多は無限。
  • 「多は無限」というアナクサゴラスの主張は,二つの前提に基づいている。
    1. 〈あらぬもの〉からは何も生成しないこと。
    2. 対立するものから対立するものが現に生じていること。

内容注

  • 「あるいは他の,火より濃密だが空気より稀薄なもの〔がそれである〕として」: 諸古注はアナクシマンドロスを指示するが尤もらしくない。アナクシメネス派の誰かか (Ross)。
  • 「いわゆる要素」: 'καλούμενα' というのは,アリストテレスにとっては熱冷乾湿に還元できるから (Ross)。
  • 「ある人々は結合と分離だとするから」: アナクサゴラス fr. 17 が対応するが,οἱ δὲ とあるように,ここではエンペドクレスか (Ross)。
  • 冒頭における自然学者のグループ分けは性質変化を論じる際に重要となる。cf. GC 314bff. (Charlton)。

Charlton は章全体のうち今回の最初の段落以外の注解にほぼ一パラグラフしか費やしてない。興味なかったのかも。

*1:cf. '[...] if ὄν be kept, the text is best translated 'some, making being a single body, viz. the underlying body'. Neuhäuser takes the greek as οἱ μὲν γὰρ ἓν σῶμα ποιήσαντες τὸ ὂν τὸ ὑποκείμενον, but this is more difficult in view of the order of the words' (Ross, 482).

*2:LSJ A2 は単に 'separate' とし,a23 を引いて 'hold that the rest are separated out from ...' と訳している。