江原・金井編『フェミニズム』河口『クイア・スタディーズ』森山『LGBTを読み解く』

江原・金井はフェミニズムの入門書。リベラル,ラディカル,マルクス主義ポストモダンフェミニズム,等々のトピックについて,それぞれ独立の章が設けられており,議論の大まかな構図は理解できる。ただし,紙幅の制約もあって,各々の理論的前提について必ずしも詳細に論じられているわけではない(e.g. ラディカル・フェミニズムが批難する「公私二元論」とはなにか)。加えて,そもそも20年前の文献なので,今日の議論状況を知るには他にあたる必要があるだろう。

以下の文献は今後読んでいきたい。堀場清子編『『青鞜』女性解放論集』,J. S. Mill, “The Subjection of Women” および水田珠枝『ミル「女性の解放」を読む』,同『女性解放思想の歩み』。

河口および森山はクィア・スタディーズの概説書。うち河口本は再読。最初に読んだのが随分前なので,異なる印象を抱くだろうかとも思ったが,そうでもなかった。よく整理された記述で読みやすい。映画『ハッシュ!』はいずれ観てみたいと思う。

森山本は,副題にもあるように,クィア・スタディーズを主題として,その基礎と応用,という体裁をとっている。セクシュアル・マイノリティに関わる事象を捉える概念(「性別違和」等々)を比較検討する際に,クィア・スタディーズの視座――差異に基づく連帯,価値の転倒,アイデンティティの両義性・流動性――を「採点基準」(177頁)とするべきだ,という提言には賛成できる。その一方で,こうした適用を支えることを期待される理論面は,かなり未整備なのだという印象も受ける。提示される「五つの基本概念」も抽象度がまちまちで,最も抽象的な「パフォーマティヴィティ」概念が最も心もとない。*1

また,クィア・スタディーズという視座の紹介を主題とするため,セクシュアル・マイノリティに関する個別的事象の記述はそれほど詳しくない。特にレズビアンについての記述は薄く,トランスジェンダーについても概念の整理に主眼が置かれている。詳しいことは巻末の読書案内から読んでいくべし,ということなのだろう。

*1:パフォーマティヴィティ概念に関する本書の議論については,次の記事においてきわめてまっとうな批判がなされている。https://flipoutcircuits.blogspot.jp/2017/08/blog-post_10.html ところで,言語論として破綻している,ということの確認はもちろん有用かつ必要だけれども,こうした文脈で一見筋の通らない抽象的な議論に出くわした場合に,多くの一般読者がなすべきことは,むしろ,それを用いていかなる(実践的な)主張を行いたいのかを推量し,その主張じたいの当否を吟味し,そこに至る妥当な迂回路を探すことだと思う。